病院から在宅にフィールドを移すとき、最初に戸惑うのは「距離感」かもしれません。
病院では、患者さんと医療者の関係はどうしても医療者主体で進み、治療や処置が優先される場面が多くなります。一方で訪問看護では、“ご自宅”に伺います。
玄関に並んだ靴、冷蔵庫に貼られたメモや予定表、テーブルの上の新聞や薬のカレンダー。
そんな日常の風景にふれた瞬間、病院では見えなかった「生活者」としての姿が立ち上がってくるのです。
「ここで朝ごはんを食べて、このテレビを見ながら過ごすんですよ」そんな一言の中に、その人らしい暮らしの温度が感じられました。
ご家族との距離感もそれぞれ異なり、ちょっとした表情や沈黙から気持ちを読み取ることも必要になります。
だからこそ、訪問看護では「看護師である前に、一人の人として信頼されること」が何よりも大切なのだと実感しています。
家に入るというのは、単なる業務ではありません。その人の時間と空間、人生の一部に足を踏み入れること。
訪問看護は、病気を見るのではなく、「暮らしをまるごと支える看護」なのだと、日々教えられています。